3.金属アレルギー患者の診断法

1)問診について

まず,来院した金属アレルギー関連疾患患者には,問診によりスクリーニングを行う.主訴,現症は当然ながら,以下の項目についても必ず調査する必要がある.

  1. アレルギーに関する既往(とくにラテックスアレルギー・化学物質過敏症は注意)
  2. 難治性皮膚炎の有無
  3. 金属との接触の機会や頻度(日常生活・職業等)
  4. 金属との接触と皮膚炎の発現の時間的な一致
  5. その他の物質との接触の機会の有無
  6. 歯科治療と皮膚・粘膜疾患の時間的な一致

これら問診により金属アレルギーが疑わしい症例は,パッチテストや臨床検査に進むことになる.

2)パッチテストおよび口腔内修復物定性分析について

パッチテストを行う場合,本学保存修復科ではパッチテスト試薬金属(鳥居薬品)16種類と皮膚パッチテープ・パッチテスター「トリイ」(鳥居薬品)を使用している(表2,図1).
本学でのパッチテストは単純に背中もしくは上腕屈側部に貼付して48時間後もしくは72時間後で第1回目の判定を行い,7日後の計2回で貼付箇所の炎症状態の判定を行うものである.判定規準は表3に示したICDRG(国際接触皮膚炎研究班)規準に準じ,「十」以上の判定を陽性反応としている.図2にはパッチテストの陽性例を示した.7日後の判定では,とくに遅延型で反応を示すAu,Pd(場合によってはSn,ln,lr)を判定するのが目的である.パッチテストを行う際の注意点を表4に示したが,パッチテストの反応を抑制する抗アレルギ一剤やステロイド内服は禁忌である.とくに,シックハウス症候群や化学物質過敏症のような重篤なアレルギー疾患患者は医師にコントロールを依頼しなければならないため,医科との連携は必須である.

パッチテスト陽性患者は,口腔内修復物の現症からの判断で,必要に応じて鈴木)の金属生検法にて,口腔内修復物および日常生活用品等の定性分析を行っている.これはFGホワイトポイントを金属修復物表面に低速回転で押し当て,微量の試料を採取して分析する方法で,迅速簡便にしかも非破壊的に実施することができる方法である (図3a).

定性分析法はX線マイクロアナライザー(EPMA)および蛍光エックス線分析装置(XRFS)を用いるのが一般的である.本学では簡便に短時間で使用でき,試料作製も煩雑にならないエネルギー分散型EDS分析装置を採用している.本学にて使用しているエネルギー分散型EDS分析装置(図3b)およびそれを用いた場合の代表的な分析例を図3c〜gに示した.表3 図4 表4

パッチテストは医科との連携も必要になり,場合によっては口腔内修復物や日常生活用品の定性分析が必要になるため,専門医に依頼したほうが賢明かもしれない.金属抗原除去療法は既存の修復物を多数除去し,長い場合は2年くらい臨床症状が消退するまでTEK等で経過をみるケースもある.咬合関係の破綻を招きかねないゆえ,定性分析による選択的除去を行い,必要最小限に抑えることが理想である.しかし,Au,Pd等がアレルゲンとなった場合,抗原除去後にメタルフリーの私費治療に移行しなければならない可能性も多い.さらに,金属アレルギー自体遅延型アレルギーのため,抗原除去後も臨床症状消退まで時間を要することなどの特殊性まで考慮して,十分な検査およびインフオームドコンセントが必須である.

私たちの場合,とくに口腔扁平苔癬や接触性皮膚炎の患者において

  1. 臨床症状が重篤
  2. 臨床症状と口腔内修復物が近接
  3. パッチテストの陽性所見が「+」以上
  4. 除去対象金属が貴金属合金以外

のような条件であれば,パッチテストの結果と定性分析の結果および口腔内金属修復物の為害性を患者に提示し,積極的に金属抗原除去療法に進めるように考えているが,最終判断は患者自身にさせている.

3)金属アレルギー検査のその他診断法

皮内試験,微量内服テストも以前は行われていたが,現在は危険性や痛みをともなうため,パッチテスト以外ほとんど使用されることはない. リンパ球刺激試験(LST : Lymphocyte Stimulating Test)は1回の採血で済む試験法であるが,いまだ金属が試験対象であると多くの人が陽性にでてしまい,パッチテストの確実性には至らないのが現状である.パッチテスト以外の臨床検査項目は末梢血一般,肝機能検査で,どのアレルギー疾患でも必要と思われる.各疾患別に副次的に必要と考えられる臨床検査項目は後で触れる.

最近,モリタより販売されるようになったDMAメーターは,修復物と口腔粘膜間の起電力の差から口腔内金属の溶出傾向を簡便に判断できる機器であるが,機器使用前に各々の口腔内修復物の詳細な定性分析を行うこと,口腔内起電力測定もデータがばらつくことなど,実際に使用してみたところ,現段階では診断の指標としては利用可能であるが,金属アレルギーの確実な診断機器としてはまだ難点があると思われる