下唇周囲のしびれが出現する?

下顎の骨の中には、下歯槽管というトンネルがあり、下顎の後ろの方から下唇の斜め下ぐらいまで続いています。この中には神経と血管が走行しており、この神経(下歯槽神経といいます)は、骨の中のトンネルを出た後、下唇周囲まで枝を伸ばし、主に歯の感覚や、下唇とその周囲の感覚を担当しています。抜歯の際に問題になるのは、智歯の根の先と下歯槽管の位置関係です。根の先がトンネル内に突出していた場合、抜歯によりトンネル内に穴があき、神経血管の損傷の原因になります。血管損傷時には、強い出血により抜歯を中止する事もあり得ます。

神経損傷時には、主に、下唇周囲を触ってもわからないなどの感覚の異常がおこる可能性があります。ある論文では、抜歯により神経が露出した場合、感覚異常の出現率は20%で、このうち、二年間で80%が回復したものの、20%は感覚異常が残存したと報告しています。神経が露出した100例のうち、4例が回復しなかった計算になります。感覚異常に対しビタミン剤が有効の時もありますが、確立された治療はないのが現状です。

下歯槽管(赤線)は、下顎の後ろの方から下唇の斜め下ぐらいまで走行する。
智歯の根の先は下歯槽管から離れており、抜歯による血管神経損傷の可能性は低い
智歯の根の先は下歯槽管内に突出し、抜歯による神経損傷の可能性が高い。

当クリニックでは、この抜歯に起因する神経損傷を最小限に抑えるため二つの工夫をしております。一つはCT・断層撮影による診断の向上です。通常のレントゲン撮影では、顔という立体を一枚の平面の写真にしますので、細かい重なりがどうしても避けられず、智歯の根の先と下歯槽管の位置関係を診断するには、限界があります。そこで、CT・断層撮影を行い診断の精度を上げています。

難しい抜歯の原因は?

上顎智歯の時と基本的にほとんど同じですが、下顎骨は骨質が硬い事が多く、難度が高いことが多いようです。

  1. 智歯の埋まっている程度、骨の中の深さ
  2. 萌出の方向(水平に、横になるほど難しくなります。)
  3. 智歯の根の形(根の数、膏曲など)
  4. 手前の歯との引っかかり具合
  5. 骨の硬さ(骨が硬いと麻酔が効きにくい事が多く、又歯の根と癒着している事もあります。)
  6. 器械の到達性。ロが元々開きにくい。唇があまり伸びないなど器械がロの中へ入れにくい

などが挙げられます。
以上、上顎と下顎に分けてお話しましたが、それぞれの危険性がどれくらいあるか、症例により全く異なります。不明な点ありましたら御相談下さい。