4. 金属アレルギー関連疾患の診断および治療法

1)口腔扁平苔癖

口腔扁平苔癖は頬粘膜,歯肉および口唇に発現し,好発年齢は中高年の女性に争い難治性皮膚粘膜疾患である.白板症,尋常性天疱瘡や多形性紅斑が要鑑別疾患である.悪性化のケースも経験しているため,病理確定診断は欠かせない.また,長期経過を要した症例においては,その病態変化がみられた場合において適宜病理確定診断を依頼している.

臨床検査項目には,末梢血一般,肝機能一般,HCV抗体および抗核抗体があげられる.とくにC型肝炎抗体陽性は合併症)のケースもよくみられる.これはC型肝炎ウイルス(HCV)が直接抗原として働いている可能性,あるいはその感染により生じた免疫,防御系統の異変が疾患に影響を与えている可能性もある.そのため,HCVの加療が扁平苔癬の改善に作用するケースもある.
しかし,その病因はいまだ確定していない疾患である.1つにその好発年齢より,更年期によるホルモンのアンバランスの影響があげられている.また降圧剤,向精神薬,利尿剤,メチコバール等の薬剤アレルギーが原因の場合もあるため,医科における投薬の種類等は把握し,炎症時期との一致性がみられる場合は変薬を依頼することも有効である.

扁平苔癖は金属アレルギー関連疾患とされており,その精査は必須である.しかし,過去10年間の扁平苔癬患者の金属アレルギーの対応ではパッチテスト陽性率は約7割と高いものの,アレルゲン金属が口腔内にみられ,金属抗原除去療法を行ったのは約2割,そのなかの半分が治療傾向を示したのみである.すなわち,金属アレルギー原因での扁平苔癬患者は1割程度に過ぎないのが現状である(表5図4).これは最近口腔内にアマルガムが使用されなくなった影響もあると思われる.
扁平苔癬の治療法は,

    1. ステロイド(ケナログ,デスパコーワ,デキサルチン)軟膏の応用
    2. アフタッチ外用

内服では,

  1. ビタミンA(チョコラA剤 ビタミンA酸(チガソン)
  2. セファランチン内服

である.

食事等もつらい重症例では,リドカイン含有の洗口液で痛みを抑える膜をつくり対応する場合もある.その他,皮膚科領域では長波紫外線療法のUVA照射法(Ulutraviolet-A:UVA)と,ソラレン(Psoralen : P)の内服療法を併用したPUVA療法)が応用される場合もある.

2)接触性皮膚炎

接触性皮膚炎は接触性アレルギーが疑われる皮膚・粘膜疾患の総称である.そのため,全身性では歯科金属疹,口腔領域では口内炎・口唇炎・歯肉炎等が代表例である.接触性アレルギー症状は上皮剥離,びらん,潰瘍,出血,肉芽腫形成が一般的である.一次治療としてステロイドや抗ヒスタミン剤軟膏応用を行い,経過が長く金属の装飾品等でのアレルギー自覚症状の既往がある場合に金属アレルギー精査をすべきである.

実際,重篤な場合は血行性感染より金身性接触性皮膚炎になる場合もあるが,抗原除去療法を行っても,完全治癒にまで至った例は少ない.そのため,私たちは臨床症状がアレルゲン修復物に近接する部位に限局する症例を中心に加療を行っている.遠隔部位もしくは全身性に臨床症状が発現している症例では,患者が強く除去を希望し,患者の同意が得られた症例に限り抗原除去療法を行っている.症例を選択しているため,金属抗原除去療法を行った接触性皮膚炎の患者は高確率で治癒する可能性が高い.

3)掌蹠膿疱症

掌蹠膿疱症は手掌や足蹠皮下に多発する小水痘の発疹を起こす疾患である(図5).病態が重症になった場合,鎖骨,胸骨および肋骨等の骨関節炎を併発する場合もある.以前は,扁桃および口腔領域における病巣感染,ついで金属アレルギーが病因とされていた.しかし,最近になり掌蹠膿疱症患者は特異的に腸内細菌のアンバランスによるビオチン欠乏が認められることが前橋)の報告にて示され,私たちも2年前よりビオチン療法)を採用している.   表6

表6の掌蹠膿疱症患者の転帰に示したとおり,さまざまな治癒消があるが,症例数は少ないもののビオチン療法の治癒率(6症例中5例治癒)が一番高い.今までのような扁桃摘出術や歯科における口腔内病巣感染,もしくは金属抗原除去療法よりも患者の身体および経済的負担も少ないことから,現在の掌蹠膿疱症患者の治療にあたっては,まず連携医科におけるビオチン療法を最優先して,症状の経過を1〜2か月にわたって観察している.

一般的な医科における治療法とビオチン療法の概要と注意点を表7に示した.とくに,掌蹠膿疱症性骨関節炎併発の重症例は皮膚科と連携して,鎮痛剤投与やステロイド対症療法を併用し,急性症状の緩和も医科で同時併行的に行っている.その後,ビオチン療法の効果が低い患者は,耳鼻咽喉科における扁桃摘出治療および歯科領域の病巣感染部位の治療をビオチン療法と同時併行的に行い,長期経過観察している.表7

それでも治癒傾向を示さない場合にはじめて金属アレルギー精査,それに基づく金属抗原除去療法と進めるが,これは最終手段である.金属抗原除去療法により治癒にまで至った症例は稀で,全掌蹠膿疱症患者96名中わずか4名であり,すなわち金属アレルギー原因の掌蹠膿疱症患者も1割以下であるのが現状である. 図6にビオチン療法が奏功せず,金属抗原除去療法により改善した掌蹠膿疱症症例を示した.  図6